◆妊娠中の乳首の手入れ◆
最近は出産後カンガルーケアやおっぱいの直接授乳をする施設が多くなってきましたが、これは母子ともに好影響があるので多くの施設がとりくんでいます。
その効果の一つに母乳育児に移行しやすいということがあります。
しかし、母乳を飲ませる行為は簡単なようでいて難しい一面もあります。
私の経験では妊娠中の乳首の手当てを「している」のと、「していない」のとでは、おっぱい全体がほぐれるまでの時間が違います。
更に乳管が開いておっぱいがスムーズに出るようになるまでの時間にも差が出ます。
当然手当てをしている方の方が早いです。
特に、次の方は乳首が浮腫みで、大きくなり、更に硬くなって、その状態で乳首を咥えさせるため傷付きやすく、「直接母乳の授乳」が困難になる傾向があるので、妊娠中に手当てが必要です。
①乳首が扁平(乳首が平らで出ていない)
②陥没乳頭(乳首が中に埋まっている)
③短乳首(乳首が短かくて指でつまめない)
但し、心配は無用です。乳首が柔らかくなれば、どんな形の乳頭でも、(早く手当てすれば2週間~1か月くらい)直接授乳は可能です。
ご自身で心当たりがあるかたは、妊娠中に必ず助産師にチェックしてもらい、その手当てをしておくことが大切です。(産後に出会った方から「もっと早く知りたかった」と言う言葉をよくお聞きします)
産後、最初におっぱいが張ってくるのは個人差があり2日目~4日目あたりですが、かなり張って痛みも伴います。
そのような時でも、最初からしっかり吸い着く赤ちゃんもいますが、吸い着かない(吸わないで舐めているだけ、泣いているだけ、その気がなくて口を開けない)赤ちゃんもいます。
上記①②③のような乳首ですと、赤ちゃんはまっさらですから、最初は吸い着こうと努力します。
が、ハーモニカを吹いているように滑って乳首に吸いつくことができないとだんだん嫌がるようになります。
その結果、日が経つにつれ「直接授乳が出きない」ママは、自分を責め、母親としての自信をなくして一人悩む方がいらっしゃいます。
原因は乳首(十分な長さや柔らかさが足りない)なので、乳首の手当てをすれば必ず直接授乳はできます!!
そして、これが一番大切です。
「乳首の~飲めるようになる条件が整うまで~は、決して飲ませようと無理強いしない」で、搾乳をあげながら時間を稼いでください。
その間は赤ちゃんの機嫌を損ねないように、おっぱいを見せたり、匂いをかがせたり、ちょっとくっつけたりしておっぱいで遊んでください。
やがて条件が整うと自分からあっけなく吸い着きます。
それはこちらが拍子抜けするほどの「一瞬の出来事」です。
そのような場面に何度も出会いました。
◆助産師会の話し合いで・・・◆
こんな話題が出ました。
乳児湿疹について、「妊娠中から食事の内容に気をつけることが大切」だと。
授乳中の食事についてはいろいろ言われていて、熱心に取り組んでいる方もいます。が、
ここでの結論は、①自分で作る(添加物や保存料などの心配がない)
②肉は少なめ
③バランスよくでした。
他には「身体を冷やさない、ジャンクフードは食べない、納豆や枝豆を好きだからと言って毎日食べない、パンよりご飯を食べる」等、皆の経験からの意見も出ました。
もう一つ、赤ちゃんには「行動する前に説明が必要だ」という意見が出て、皆「そうそう!」と日ごろ感じていたのか異口同音に応えました。
「お風呂に入ろう、オムツをかえようね、から始まりお出かけするとき、人に会うときなど説明したりお願いしたりすれば必ず分かると」つまり赤ちゃんの気持ちを尊重するということですが、一番著明に現れるのが、授乳中に他の人と話をしたり、テレビを見たり、携帯をいじっていたりすると怒りますよね。
経験のある方はこの記事をご覧になって、きっと頷かれていることでしょう。
◆マタニティブルーズ◆
新生児訪問をしたとき、マタニティブルーズのひどい方に出会いました。
職業は保育士さんです。
赤ちゃんが泣くと『どうしていいか分からない。赤ちゃんに声がかけられない。泣くと「あぁーっ又だ!」と思い、嫌になってしまう。
昨日は思わず赤ちゃんの顔にハンカチをのせそうになった。
こんなはずじゃなかったのにどうし てこうなったのか分からない。
夜一人になるのが怖い!(ご主人が入院中)。
自信がなくなった』
といいながら涙をぽろぽろ流して泣かれてしまいました。
そのとき実母が私に「赤ちゃんの両ほっぺをつねるようにするときがあった」と耳打ちしたのです。
実母は昼間は手伝ってくれていますが、事情があって夜は自宅に帰っていました。
すぐに保健センターと連絡をとり、実母に彼女の現在の心理状態を話たところ、深刻な状況だということに気づいてもらうことができました。
その結果夜も泊まっていただくことになりました。
以前聞いた話ですが、同様な状況に対応できなかったとき自らの命を絶ってしまった例や、赤ちゃんを死亡させた例があると言うことを思い出し、心配でとても一人に出来ませんでした。
そして今日、保健師に確認したところ、「昨日ご主人が退院しその間実母が泊まってくれて落ち着いたようです」と言う返事が返ってきてほっとしました。
私の取越し苦労で終わってよかったです。
◆保健センターで出会ったママ◆
母乳育児に熱心に取り組むあまり、行き過ぎてしまった1ヶ月の男児をもつママの話です。
保健センターでは、母乳相談を私ともう一人の助産師で月1回行っていますが、普段は「母乳分泌促進、卒乳、、しこりがとれない、おっぱいが痛い、母乳が足りているのか」などです。
それぞれが対応できることばかりで、ヘルプのサインはありません。
ところがめずらしく、もう一人の方からヘルプのサインがきました。
おっぱい不足でマッサージしても射乳がおきてこない、赤ちゃんの1ヶ月の体重増加が1日4gだといいます。
赤ちゃんを見たところ、手足はチアノーゼ(紫いろ)顔色も悪く活気がありません。
何より骨と皮のような状態なので思わず息を呑みました。
ひょっとして赤ちゃんが病気を抱えているかもしれないと思い、母乳を飲ませてみました。上手!!なのです。
これは単に栄養不足だという結論になり、「ママのおっぱいだけではかろうじて基礎代謝を維持するだけで、体力を消耗しないようにじっと寝ているというのが今の状態ですよ。このままでは赤ちゃんにとってよくないのでミルクを追加したほうがよい」と説得しますが、頑として受け入れようとしません。
普段、母乳育児をすすめていても、ものには限度があります。せめて1日20g位の体重増加があり、それなりの手当てをしながらでしたら賛成しますが、この方は「このまま母乳だけで続けたい」の一点張りでしたから・・・。
お産した病院は母乳育児推進の方針ですが「経過観察の相談もせず、ママに任せきり《ママの言い分》」だったようで、それ故、なお更母乳にこだわっているようです。
他所で、母乳相談の助産師にみてもらったときも、ミルクの追加を勧められていたようです。
私たちもこのまま母乳だけでという選択は無理だと判断したので、当分混合《母乳と》ですることを勧めたのですが、母乳だけでという思いが強く、目の前の赤ちゃんを見ても、異常な状態だと判断できないようになっていて「このまま母乳だけで、大丈夫!」と言ってもらえるところを探して歩いているような気配でした。
もちろんナーシングサプリメンターでのミルクの追加方法もご紹介しました。
もともとの管轄が他の保健センターなので、保健師が連絡を取り合い翌日も説得することにしましたが「何故そのようにこだわるのか」ゆっくりママの言い分を聞いてあげられればよかったと心残りでした。
私たち医療者も「母乳育児の本当の目的」をママたちに「正しくお伝えする必要がある」と感じた一件でした。
◆添い乳◆
用意するもの:クッション(A.B)(枕でも何でもよい)を赤ちゃんの背中側とママの曲げた膝のあたりに置く
A:授乳中の赤ちゃんの身体を支えるためのクッション
B:授乳中、上になったママの足の膝を支えるためのクッション
赤ちゃんをそばに置き、赤ちゃんの身体を支えるためのクッションAを赤ちゃんの背中側においておきます。更にママの上になった足の膝を曲げたあたりにクッションBをおきます。(曲げた膝をクッションに乗せると腰が緩んで楽です)
まずママが横向きになります。
そこから斜め30度くらい背中側にからだを倒します。これは赤ちゃんの鼻がつぶれないように、尚且つ乳首が咥えやすいようにするためです。
ここで膝をまげてクッションBに乗せます。
これでママの準備は出来ました。
次は赤ちゃんです。
赤ちゃんの口がママの乳首と同じ位置に来るようにお尻から肩にかけて引き寄せママの身体に腰、腹、胸をぴったりつけると自然に頭が少し遅れてのけぞる体制になります。(この体制が大事)
そして、しっかり乳首に口を近づけると自分から乳首を探して咥えます。
決して頭を押さないことが上手にくわえさせるコツです。(赤ちゃんは頭を押されるのをとても嫌がります)
赤ちゃんが乳首を咥えて落ち着いて飲みはじめたら、クッションで赤ちゃんの身体を支え、その上からママの手をおくと楽です。
もう片方のママの手は自分の枕の下に入れ手枕状態でもいいし、赤ちゃんの頭の下にいれてもいいです。
どちらでもご自分のやり易い方で昼間のほっとする時間に添い乳しながら疲れをとりましょう。
◆11ヶ月の男児のママからのレターです。◆
「○○はスクスク育って、もうすぐ歩きはじめるかな〜って感じです。
離乳食も良く食べ、まだ母乳も飲み活発に動きまわっています!
今年は本当に色々お世話になりました。
こんなにもを愛おしく思い、また育児をこんなに楽しめるとは思っていませんでした。
母乳育児をどうにか続けられたことで自分に自信ができ、段々余裕がでてきたんだと思います。
それにしても、真っ只中の時は自分がこんなに元気になれるなんて思っていませんでした!
振り返ると何であんなにテンパってたのかと不思議です・・・。
そして、今は二人目が欲しくてたまらなくなってきてます!!」
先日、上記のようなメールが届きました。本当に嬉しかったですね。
育児不安が強く、それがおっぱいトラブルの源になっていて、どうしたらその状況から脱け出すことが出来るのか、私もあの手この手と色々試みましたが、なかなか好転しませんでした。
しかし、赤ちゃんの成長とともに おっぱいも落ち着いてきたころから精神的にも余裕が出来て、徐々に気持ちが上向きになりましたから、やはり「時間が解決」ですね。
◆続的ケアの効果その1◆
先週末をもってひとまず継続的なケアを終了したママがいます。この方は長男の時おっぱいのトラブルで、とても苦労しました。
二人目は母乳育児を楽しみたいと「毎月1回」の乳房ケアを依頼されてきました。
退院して間もなくから10か月になる今日まで(今週から職場復帰するので)看させていただきました。
一人の方を継続してケアさせていただくことは初めてでしたが、お蔭で乳房がどんどんほぐれて良い感じに変化していく様子が手に取るように分かりました。
この経験からやはり本に書いてある通りだということが証明され、他のママにまた幾つかお伝えできることが増えました。
◆続的ケアの効果その2◆
実感したことは
1.おっぱいが軌道に乗るのは個人差もありますが3~4か月掛かるということ。
2.そこを通過すると需要と供給のバランスが断然よくなるということ。
3.もう一つ、ママは気づいてないのですが、4か月までは時々しこりができることがありました。
もちろんマッサージですぐにほぐれましたが、もしかすると軌道に乗るまでは(想像ですが)どなたにも起きている ことなのかな?
しかし「赤ちゃんが飲むことで自然に解消しているのかもしれないなぁ」と感じています。
継続的なケアを依頼されたママの感想は「乳栓つまりや乳腺炎など不安と恐れと体調の悪さが出てから依頼すると精神的に辛すぎるから、トラブルの心配なく、安心して母乳育児ができるのでとてもよかった」・・・と。
行政の子育て支援券の使える仕組みが早く整えば、退院後3回くらいの「乳房手当て」をするだけで、「母乳育児率が上がるんだけどなぁ」と思った次第です。